OzaShin’s diary

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Dave Smith Instruments Prophet12 レビュー

Dave Smith Instrumentsのシンセサイザー、Prophet12を約2年半使ったユーザーのレビューです。

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概要

Prophet12(以下P12)を導入したのは2016年3月ごろだったと思います。以前から欲しかった機種なのですが、値上がりしそうだという噂があり、購入した覚えがあります(噂の通りその後値上げしました)。

P12はその名の通り、12音ポリのデジタル・アナログハイブリッドシンセです。6音までを1つのレイヤーに割り振り、2レイヤーを使用した音色を作れます。また、モノフォニックで演奏する場合のみ12音までのユニゾンが可能です。3ユニゾン×4和音や4ユニゾン×3和音といった柔軟なユニゾン設定ができると良かったですね。オシレーターが4つ使用できるので、ユニゾンデチューン効果が出来ないわけではありません。

 

「雨と鳥籠」冒頭のポコポコしたシンセや歪んだフルートのような音など、前半はほとんどP12で制作しています。雨の降っている霧の森のような神秘的な感じにしたいと思い、この音色を制作しました。

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Prophet12の良い点

とにかく自由度の高い音作りができます。現代のシンセサイザーとして考えられることはほとんど可能だと思います。

オシレーターはVAの基本波形以外に、簡易的ではありますがモーフィングが可能なウェーブテーブルも搭載しており、幅広い音色に対応します。波形の微調整や、シンセではやや珍しいAM(振幅変調)、アップデートによって4オペレーターまで可能なリニアFMにも対応し、更に自由度が高くなりました。デジタルオシレーターやノイズでFMをかけることも可能です。ノイズで変調させると独特なざらつきのある質感になります。FMのアルゴリズムは、モジュレーションマトリクスを使用してオシレーターの変調先を指定すれば、直列以外の並び方も可能です。オシレーター(オペレーター)で自分自身を変調させれば、フィードバックも可能。

オシレーターからの流れは公式ページに掲載されている図が分かりやすいと思います。以下、公式ページからの引用画像です。

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オシレーター部で作り込んだ音はミックスされた後キャラクターセクションに入ります。AirやGirthはEQ的、Deci、Hackはクラッシュ系、Driveはサチュレーション的にはたらきます。Deci、Hackは連続的な変化ではなく、実質4〜5段階の変化なのが少し残念ですが、音質は気持ちいい感じに設計されています。特に使えるのはDriveとGirthで、Driveは倍音が増え分厚くなるようなかかり方、Girthはデジタルオシレーターの細さを補うことができます。

フィルターはアナログフィルターで、良くも悪くもProphetのフィルターといった感じです。雑味がないといいますか、滑らかで歪み感のない、音色が破綻しないとてもクリアで素直なフィルターだなあと感じています。キャラクターセクションが汚し・歪み系のものが多いので、クリアな音質のフィルターとの相性はとてもいいと思います。

フィルターの後はアンプセクションを通り、OUT、フィードバック、ディレイに分岐されます。 フィードバックはピッチチューンが可能なタイプで、音を飽和させるだけでなく、音を一瞬裏返したり金属的な質感を付加することなども可能です。フィードバックセクションは予測しづらいですが、上手く使用すれば他のシンセでは絶対に出せないキャラクターのサウンドに仕上げることができます。フィードバックにエンベロープの変調をかけたところ、ティンパニのようなサウンドまで作れました。

 

フィードバックの後ろにはディレイが4つあります。なぜ4つもディレイがあるのか初めは疑問でしたが、少し使えばその理由はすぐ分かりました。ディレイタイムをLFOで変調すればコーラス・フランジャーとしても使え、複数のディレイを使用すればリバーブが作り出せます。

オシレーター、キャラクター、フィルター、フィードバック、ディレイなどの各パラメーターは、全て4つのLFO、フィルターENV、アンプENV、2つの独立したモジュレーションENV、モジュレーションホイール、アフタータッチ、2つのリボンコントローラーの位置と圧力などで、柔軟に変調できます。発表当初にデイヴ・スミス氏が「自身のシンセサイザーで最も面白い機種」と評していたのも、このモジュレーションの多彩さが大きいと思います。オシレーターがデジタルとはいえ、ここまで自由度を高めたモジュレーションが可能なのは驚異的です。変調の設定方法も簡単で、Assign Mod SourceやAssign Mod Destinationを押しながら変調ソース、変調先を触ることで自動的にアサインされます。考えたアイデアはほとんど形にできるので、長く使っていても全然飽きないシンセとなっています。

 

Prophet12の改善してほしい点

最も惜しいなと感じている点は、キャラクターセクションの位置です。フィルターの前段ではなく、フィルターの後段にいてくれたほうが良かったなあと感じています。フィルターの後ろにDeciのクラッシュが入っていれば、更に崩壊したようなサウンドが作れると思いますし、フィルターで整えた音質をAirやGirthで調整するほうが音作りはやりやすかったように思います(一応補足すると、フィルターの後ろにもOver Driveという歪みがありますが、こちらはクラッシュ系の歪みではなく温かみのある歪みエフェクトなので、高音の抜けが落ちてしまいます)。

高音域に倍音を多く持つ音色(FMで作ったベルなど)で、シュワーンという強い折り返しノイズが発生します。そのため、ウェーブテーブルを使用したアグレッシヴなサウンドは、全体的にザクザクしたような質感になりやすいです。僕はこのノイズはP12の味のようなものと納得していますが、他の方のレビューを読む限り、気になっている方が多いようです。たしかに、ノイズが入らないバージョンの音も聴いてみたくなることはあります。

また、Pro2のオーディオインがProphet12にも欲しかったです。外部の音をProphetのフィルターで動かしてみたかったですね。外部のシンセとMIDIで繋いで、オーディオインで重ねる、といった面白いこともできたはずです。

 

総評

オシレーターの設定やキャラクターセクション、モジュレーションの自由度の高さなど、多彩な音作りができますが、ざっくりしている部分はすごくざっくりしているので、しばらく使っていると「P12らしさ」のようなものをしっかり感じられると思います。シンセサイザーを理解している方であれば、様々なアイデアを試して新しい音色を見つけ出せるシンセサイザーです。値段は高くなってしまいましたが、末永く付き合えるシンセサイザーだと思います。